顎関節症
「顎が痛くて、硬いものが噛めない」
「口を大きく開けることができない」
「口を開けると、顎がカクン、コキンと音がする。」
このような症状をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
これらはいずれも顎関節症の代表的な症状として挙げられているものであり、上記のうち一つでも当てはまる症状がある場合、顎関節症であることが疑われます。
顎関節症は近年特に若い女性に急増しており、ある研究では、女性は男性に比べて骨格や筋肉が弱く、顎関節症になりやすいとの分析結果も報告されています。
また近年では、コロナ禍における生活習慣の中にも顎関節症を発症しやすいものがあるとして注意が呼びかけられています。
顎関節症になってしまう原因
顎関節症の誘因としては原因が1つだけではなく、複数の原因が微妙にからみあって様々な症状がでることが多いようです。
診断学の進歩によって部分的には明らかにされましたが、いまだにわからない点も多く残っているのも現状です。
一般的には、下記のような癖や状態が顎関節症の原因になりやすいと言われております。
TCH(Tooth Contacting Habit、歯列接触癖)
正常な人の場合、普段リラックスをしている時は上下の歯は接触しておらず、2-3ミリほど離れている状態にありますが、中には、何もしていない時にも上下の歯が接触させる癖をお持ちの方もいらっしゃいます。
このような癖は、TCH(Tooth Contacting Habit、歯列接触癖)と呼ばれ、最近急増している顎関節症とも深いかかわりを持つ症状として注目されています。
TCHは、タイプとしては、クレンチング(食いしばり)と似ていますが、食いしばりのように大きな力がかかっているわけではなく、ただ上下の歯が接触している程度なので、ご自身はもちろん、周りの人も癖に気が付きにくいのが特徴です。
THCがある人の場合、舌の側面がデコボコする(舌圧痕)、頬の内側に白いスジのようなものができる(頬圧痕)、歯ぐきの骨が膨らむ(骨隆起)、などといった症状が現れる場合もあります。
歯ぎしりや食いしばりなどの癖
歯ぎしりや食いしばりは、顎の筋肉を過度に緊張させ顎関節や噛む筋肉に大きな負担をかけてしまいます。
歯ぎしりや食いしばりは、ストレスによって引き起こされるとも考えられており、引っ越しや進学、就職のタイミングで発症する方も多いようです。
また近年では、コロナ禍におけるストレスも歯ぎしりや食いしばりを誘発しているとの見方もあり、ストレスをためないための自己コントロールがますます重要になってきています。
歯ぎしりや食いしばりがある方は顎関節症のみならず、むし歯や歯周病、知覚過敏になりやすかったり、症状が重い場合は歯が割れてしまうという場合も多々ありますので、早めの改善が必要です。
頬杖やうつ伏せ寝、猫背などの姿勢の悪さ
下顎は普段頭の骨と筋肉にぶら下がるようについており、自然にバランスがとれる位置に収まっています。
頬杖やうつ伏せ寝は、下や横から顎を押す力が加わりますので、習慣的に行っている場合は顎がずれてしまう原因になります。
また、姿勢が悪いと全身のバランスの悪さを頭部で調整しようとするため、顎の位置が本来あるべき正しい位置からずれてしまい、顎関節症の原因となります。
近年ではリモートワークが普及していますが、集中してパソコン作業を行っていると、ついつい前かがみになり、顔を起こして顎を突き出した姿勢で作業しがちになります。
このような姿勢は顎の位置を前方にずらし、猫背になることで首の筋肉も緊張させてしまいますので、結果的に釘の筋肉とつながる顎の筋肉にも負担をかけることとなり、顎関節症の原因となります。
同じように、スマホを操作するときも下を向いて猫背がちになるため、スマホの使い過ぎも顎関節症を引き起こす原因となります。
噛み合わせが悪い
噛み合わせが悪いと本来あるべき顎の位置とは別の場所に顎がおさまってしまうことになるため、そのずれが顎関節症を引き起こしてしまいます。
噛み合わせの悪さは元々の歯並びが悪いということが原因の場合もありますが、実は矯正治療や詰め物・被せ物、抜歯などの歯科治療によって噛み合わせが変わってしまうこともあります。
特に奥歯の治療は噛み合わせに大きな影響を及ぼしてしまう可能性があるため、当院では奥歯の治療は同時にまとめて複数本行うということはなるべく控え1~2本ずつ行い噛み合わせに影響がないよう注意しながら治療を薦めさせていただいております。
歯科治療をしてから顎に違和感がある、矯正治療を行ってから顎に痛みが出てきた、という場合は、噛み合わせがしっかりと調整されていない可能性もありますので、なるべく早めに相談されることをお勧めします。
外傷によるもの
事故などによって顔に大きなけがを負ってしまった場合や、顎に大きな衝撃が加わってしまった場合、その衝撃によって顎の位置がずれてしまい、顎関節症になる場合があります。
また、顎だけではなく、首などにおった外傷も発症の原因となりますので注意が必要です。
適切な治療処置を行い、治療後は硬い食べ物は避けるなどなるべく安静にするようにしましょう。
顎関節症の主な症状
顎関節症の主な症状は下記が挙げられ、各症状が複合的に起こる場合も多くあります。
顎が痛む(顎関節痛・咀嚼筋痛)
顎関節症よる顎の痛みは、顎を動かしていないときにはほとんど感じることはありません。
あくびをしたり食事で物を噛んだ時に顎に痛みやだるさを感じるため、充分に食事を取ることができずに身体の免疫力も低下し、風邪やウイルスに感染しやすくなってしまうこともあります。
口が開かない(開口障害)
顎に異常がない方の場合、約40mm以上、開口できるのが一般的で、これはだいたい、人差し指から薬指まで3本を縦にして口に入るくらいの大きさです。
ですが開口障害を発症している場合、口の中に指を縦に2本入れられないことが多く、また、痛みからさらに大きく口を開けないことが多いようです。
開口障害は顎関節症の中で一番重い症状とされており、2~3ヵ月放置すると症状が進行してしまい、大掛かりな手術が必要となってしまう場合もあります。開口障害があらわれた場合はできるだけ早めに診察を受けましょう。
顎を動かすと音がする(顎関節雑音)
口を開けたり閉じたりする時に、顎関節でカクンというような音がするのも、顎関節症の代表的な症状と言えます。
この場合は、音が鳴るだけで特に痛みを感じないケースも多いため、症状があっても放置されている方が多いように思います。
ですが、痛みを感じなくても顎のズレで周辺の骨や組織に負担をかけている状態ですので、症状が重症化してしまうと開口障害に至ることもありますので注意が必要です。
顎関節症の治療
アプライアンス療法
アプライアンス療法とは、透明なマウスピースを装着することで顎の位置と噛み合わせを正しい位置に誘導する治療法です。
これを夜間睡眠中に使用することで、無意識に生じる食いしばりによる顎関節や筋肉への負担を軽減させます。
顎関節症の場合、歯ぎしりや食いしばりの癖がある方が多いのでマウスピースで歯を保護することでご自身の歯をすり減らしたり、負担をかけたりせずに済むこともメリットと言えるでしょう。
ただし、マウスピースによる治療は顎関節症の原因を解決するわけではありませんので、根本的な改善というよりも、症状を悪化させないために行う場合がほとんどです。
認知行動療法
認知行動療法とは、TCH(歯接触癖)に対する治療です。
TCHは上下の歯を触癖させてしまうことを言いますが、厄介な点は無意識に行っていることです。
問診や口腔内、筋肉の状態からTCHが疑われる場合、まずはご自身にTCHがないかを意識してもらうことがスタートになります。
無意識で行っているため気づくことが非常に難しいため、チェックの仕方などを説明いたします。
また、TCHを自覚するようになったら、気づいたときに口を大きく開けるなどの運動をし筋肉や関節を動かすことで顎の状態を良くしていく治療になります。
理学療法
理学療法とは、手指による筋肉のマッサージや、手指で補助をしながらストレッチをするように口を開ける開口訓練などがあります。
また、近年では全身の運動が局所的な筋肉や関節などの痛みを和らげるという報告も散見されるようになり、ウォーキングや無理のない範囲での運動も効果的と考えられます。
徒手的顎関節授動術
徒手的顎関節授動術とは、「急に顎がひっかかって口が開かなくなった」という症状の場合に行う治療です。
このような症状は関節円板と呼ばれる顎関節内の組織の位置がずれてしまいひっかかることで生じます。
顎を下方に押し下げながら関節円板の引っかかり解除することで口が開くようになります。
時間の経過とともに元に戻りづらくなるため症状が出現した場合は早期の受診が望まれます。